ごあいさつ

 分子生物学の発展に伴い,がん細胞の増殖・浸潤・転移にかかわる分子機構が明らかになり,2000年代から分子標的治療薬(molecular target drug)が登場してきました。分子標的薬は,ドライバー遺伝子変異/融合遺伝子による異常なタンパク質をはじめ,がん細胞の増殖や転移の原因となる標的分子に選択的に作用することで,抗腫瘍作用の増強と副作用の軽減を期待して創出された薬剤です。2022年1月の時点では80種類を超える分子標的治療薬が臨床に提供されています。
 分子標的治療薬の登場は,がんに対する治療成績を著しく向上させました。しかしながら,分子標的治療薬の副作用として,高血圧,皮膚障害,手足症候群等が報告されており,副作用予防対策や発現時の対応が,薬物治療の継続のために重要な課題となっております。

 分子標的治療薬の副作用に関する情報は,各製品のインタビューフォームに数値データや表形式で公開されています。この情報を閲覧することで,単独の副作用項目を参照する場合,「発現頻度」と「重症の割合」を定量的に把握することが可能です。しかし,記載されているすべての副作用項目を参照した場合,「発現頻度」と「重症の割合」のいずれも高い副作用項目であるか,一方のみ高い副作用項目であるか,あるいはいずれも低い項目であるかを表形式のデータから短時間で把握することは困難です。また,他の医薬品との比較も時間と労力のかかる作業となります。

 そこで,我々は分子標的治療薬を対象に,副作用情報の可視化を行うことを計画しました。医薬品分野ではありませんが,経済産業省では,製品事故のリスク評価にリスクマップによる分析を用いています。これは「危害の程度」と「発生頻度」を数値化し,2次元のマトリックスの領域に表示することによりリスクの見える化した手法です。この手法を参考に,分子標的治療薬の副作用情報のマッピングを行っております。副作用マッピングにより可視化された情報から、分子標的治療薬の副作用情報を直観的・俯瞰的に把握できることを期待しております。

 このほか,本サイトでは,研究代表者や配属学生が制作した抗悪性腫瘍薬に関する医薬品情報をコンテンツとして掲載しております。日々医療に真摯に取り組まれている薬剤師に少しでもお役に立てれば本サイトの制作にかかわった一同の喜びとするところです。

 最後に、本サイトのコンテンツ制作にあたり,帝京大学薬学部 臨床薬剤学研究室 に配属されている学生諸君に多大なるご協力をいただきましたことに感謝申し上げます。


帝京大学薬学部 臨床薬剤学 教授
板垣 文雄